会 長 就 任 の ご 挨 拶

公益社団法人 日本金属学会 第70代会長 中 野 貴 由

このたび皆様方のご推挙により,髙梨弘毅博士の後を引き継ぎ,日本金属学会の会長を務めさせていただく事になりました.本会の有する長い歴史と輝かしい実績を考えますと,大変光栄に存じるとともに,責任の重さに身が引き締まる思いがいたします.本会副会長の三浦誠司博士,吉永直樹博士,吉見享祐博士をはじめとして,産・学から構成される理事,代議員,委員,支部,ならびに山村英明事務局長および事務局の皆様,そして何よりも会員の皆様のお力をお借りし,金属および関連材料分野のために,微力ながら全力を尽くす所存です.皆様方のご支援とご鞭撻を心よりお願い申し上げます.


本会は,1937年に本多光太郎先生のご提唱により創設されました.その後の急速なグローバリゼーションと社会ニーズの多様化に対応すべく,近年では材料の基礎学理構築や基盤技術の深化を重視し,社会基盤材料,環境・エネルギー材料,電子・情報・通信材料,生体・医療・福祉材料など,産業界での応用展開を見据えた基盤材料から先端材料までの多岐にわたる材料科学・工学の研究発信の場として貢献しています.


今年度からの最も重視すべきテーマは,「with/postコロナ時代の本会のあり方」の検討と実施です.コロナ禍におけるサプライチェーンの寸断やデジタル化の流れは,改めて材料研究分野の重要性や材料技術の社会システム全体での果たすべき役割を明確にしつつあります.with/postコロナ時代に向けてさらに大いなる飛躍を遂げた本会の将来の明るい姿を想像し,ピンチをチャンスに変えるニューノーマル時代での材料科学・工学分野,さらに物理学・化学・生物学・情報科学などとの学際融合領域での学理構築・技術革新のあり方,社会貢献や人材育成の新たなスタイルを皆様とともに模索していきたいと存じます.加えて,我が国における少子高齢化は,材料分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やサイバー・フィジカルシステムを推進すべく追い風と捉え,エコシステムの中でのカーボンニュートラルは材料分野により牽引され,持続可能な社会を実現すべく材料研究者・技術者に課せられた最大のミッションとなるものと確信しています.


こうした新しい時代に於ける本会の変革への備えは,歴代会長によって行われて参りました.2013年3月1日の公益法人化は,本会の公益性を方向付ける分水嶺となりました.その後,福富洋志2015年度会長,白井泰治2016年度会長による新たな維持員制度の設置による財政基盤の強化,中島英治2017年度会長による将来のあるべき姿を示した学会ビジョンの設定,杉本諭2018年度会長による時代を先読みした講演大会セッションおよび分科の大幅改変,乾晴行2019年度会長による役員選出制度の抜本的改革と表彰制度の見直し,髙梨弘毅前会長による本会活動の情報発信強化のための広報推進WGの設置など,時代に即した改革が進められて参りました.


本年度から会長,副会長,理事,代議員の任期が同一期間での2年制になったことから,10年後を見据えた中長期的な展望に立つ本会運営が可能となりました.コロナ禍の中での本会のさらなる飛躍に向けた具体的なアクションを実行すべく,以下の方向性を定め,会員の皆様とともに材料分野の新たな時代を構築すべく,ご理解とご協力をお願いしたいと存じます.

1. with/postコロナ時代における講演会・講習会事業のあり方の検討と実施
 コロナ禍では,感染防止に向けた対面式の講演形式からオンラインや両者を併用したハイブリット形式へと学会講演大会のあり方が大きく変化しています.オンライン形式は遠方からの講演大会への参加や海外著名人の講演聴講を可能とするなど様々なメリットがあります.一方で,公表前の最新データの発表が躊躇される傾向にあり,学会運営システムの抜本的な見直しが必要となっています.オンラインを活用したwith/postコロナ時代の講演大会のあり方を検討し,ガイドライン作りや将来のあるべき理想的な姿を具現化していきます.加えて,講演大会とは別日にオンライン実施する講習会事業の充実,例えば,基礎講座・講習会のシリーズ化,教育講演会,さらには電子出版業務の促進を検討・実施します,特に企業研究者・技術者や次の世代を担う中高生や若手世代を対象としたオンラインセミナーの開催など,用途に応じた戦略的な実施を検討して参ります.

2. 財政基盤の安定化とIT広報活動の推進
 本会では,過去には新たな維持員制度の導入により,産業界との連携強化と財政の安定化に成功した実績があります.コロナ禍におけるオンラインによる企業広告・企業展示などの新規IT広報手法を駆使した収入源の獲得による財政安定化と会員への情報発信サービスとを同時に検討・具現化していきます.高梨弘毅前会長により新設された若手研究者を中心とした広報委員会を基軸にしたIT広報活動の推進を,本年も継続して取り組んで参ります.

3. 会員数の維持・増強と産業界や他学会との連携強化
 近年の本会会員数の減少は,少子高齢化による自然減と学生会員を含めた若手研究者層の流動化が原因であり,35歳以下の正会員数の落ち込みによるいびつな年齢構成は,将来にわたる本会の継続的かつ活発な活動に支障を来すことが危惧されます.その解決策としては,杉本諭元会長をはじめとする歴代会長が提唱してきた「基礎から最先端材料科学のすべてが得られる日本金属学会」を実践し,本会の評価を高めるため新規シーズの開拓や企業ニーズの取り込み,学際的融合分野への裾野拡大,新規研究シーズの強化支援など広く材料学に関連する情報の発信や収集を可能とする産官学連携による魅力ある学会運営を引き続き実践すべく方策を講じ.新規材料研究分野の開拓に根差した材料戦略の策定強化を推進します.

4. 調査・研究事業
 本会の将来を先導する領域を開拓し,グローバル社会での材料科学・工学をリードする学会となるには,従来の分科会活動をさらに活発化させ,若手研究者を含めた本会の将来の発展に向けた戦略を練っていく必要があります.本会には歴代執行部と事務局とのご尽力による財政的に蓄えがあるため,この資源を有効活用するために中島英治元会長時代から各分科会への活動支援,若手研究会設立支援さらには昨年度から開始した研究助成などを行って参りました.本年はこれらの支援を継続し,有効な活動を推進できる体制強化と再構築を図って参りたいと存じます.

5. 刊行事業
 会報,会誌,欧文誌の発行は,学会活動の根幹をなすものです.これらの発刊は,今後も会員サービスの柱として高い水準で維持していく必要があります.堀田善治欧文誌編集委員長のご尽力によりMaterialsTransactionsの2020年インパクトファクターは,1.3程度まで上昇することが予測されています.この増加傾向を維持し,本会の世界に向けた情報発信力を将来にわたって獲得するには,会員各位からの良質な論文の投稿が不可欠ですので,ご協力を切にお願いいたします.

6. 表彰・奨励事業と支部活動
 本会の表彰・奨励事業は,会員の皆様の研究活動の意欲を高めるとともに,人材の育成にも欠かすことのできないものです.広く会員の皆様のご推薦とご協力をお願いいたします.加えて,支部活動は本会の活性化に大きく貢献していただいています.フェローを講師としたコロナ禍の中での講演会をオンライン開催するなど御協力を得つつ,さらに幅広い材料分野人材の教育と支部活動の支援に努めていきたいと考えています.

以上,本会の活動をwith/postコロナ時代に柔軟に対応した形で実施できるように活発化し,材料科学・材料工学をリードする学会として我が国ならびに世界の材料研究の高度化に貢献できるよう努力して参ります.会員各位ならびに事務局さらには各支部の皆様のご理解,ご協力,ご鞭撻をお願い申し上げます.

2021年4月23日